魂の成熟と人生の転機③ 失われていくもの、育まれていくもの


前回は、人生の中で光が見えなくなる時期、 

いわゆる「魂の暗夜」についてお話ししました。

 

それは失敗でも後退でもなく、 

古い自己が終わり、 

新しい自己が生まれるための大切な変容の過程でした。

 

しかし実際にその渦中にいる時、 

私たちは決して穏やかではいられません。

 

答えは見つからない。 

未来は見えない。 

頑張ろうとしても力が出ない。 

以前は喜びだったことにも心が動かない。

 

そんな状態が続くことがあります。

 

私自身、30代半ばにバーンアウトとうつ病を経験した頃、

 

「なぜこんなにも眠れないのだろう」 

 

「なぜ食欲が湧かないのだろう」

 

と感じていました。

 

今振り返ると、あの時疲れていたのは身体だけではありませんでした。 

心も、生命エネルギーも、人生そのものも、大きな転換期を迎えていたのです。

 

 

心が疲れると、生命エネルギーも疲れる

 

ヨガでは、人間は肉体だけの存在ではないと考えます。

 

ヴェーダーンタ哲学のパンチャコーシャの教えでは、

私たちは五つの層から成る存在として説明されています。

 

肉体。 

心。 

生命エネルギー。 

智慧。 

そして至福。

 

これらは別々に存在しているのではなく、

互いに深く影響し合っています。

 

例えば、

 

不安な時には呼吸が浅くなります。 

怒っている時には身体が緊張します。 

悲しい時には食欲がなくなります。

 

つまり心の状態は常に身体やエネルギーに影響を与えているのです。

 

 

魂の暗夜で最初に疲れる場所

 

人生の転機において、

最初に疲弊するのはマノマヤ・コーシャ、 

つまり心や感情の領域です。

 

「これで良かったのだろうか」

 

「これからどう生きればいいのだろう」

 

そんな問いが繰り返し現れます。

 

答えの出ない問いを抱え続けることは、

想像以上に大きなエネルギーを消耗します。

 

頭では休んでいるつもりでも、

心は休んでいないのです。

 

 

プラーナの流れが弱くなる時

 

マノマヤ・コーシャの疲労が続くと、

次第にプラーナマヤ・コーシャにも影響が及びます。

 

プラーナとは、

生命を動かす根源的な力です。

 

呼吸。 

活力。 

意欲。 

回復力。

 

生きる力そのものと言ってもよいでしょう。

 

このプラーナの流れが弱くなると、

身体は重くなり、

気力が湧かなくなります。

 

何かを始めようとしても動けない。 

好きだったことにも興味が持てない。 

以前の自分が遠く感じる。

 

そうした状態が現れます。

 

またマノマヤ・コーシャが疲れると、

表裏一体の関係にあるアンナマヤ・コーシャ、

つまり肉体の層にも不調が現れやすくなります。

 

眠れない。

食欲が落ちる。 

慢性的な疲労感が続く。

 

こうした変化もまた、

心と身体が深くつながっていることの表れなのです。

 

現代では、

これをバーンアウトと呼ぶこともあります。

 

失われているようで、実は育まれているもの

 

ここで大切なのは、

魂の暗夜を

 

「エネルギーが失われているだけの期間」

 

だと思わないことです。

 

確かに、 

古い情熱は消えていくかもしれません。 

古い目標も意味を失うかもしれません。 

未来への確信も揺らぐかもしれません。

 

しかしその一方で、

別のものが静かに育まれています。

 

それはヴィジュニャーナマヤ・コーシャ、

智慧の領域です。

 

人生の苦しみ。 

喪失。 

孤独。 

不確実性。

 

そうした経験を通じて、

私たちは少しずつ、

表面的な成功や評価を超えた視点を学んでいきます。

 

ヨガ哲学でいう智慧とは、

知識の量ではありません。

人生を深く理解する力です。

 

 

人生は私たちを成熟させている

 

若い頃の私は、

成功することが成長だと思っていました。 

思い描いた未来へ向かって進み続けることが大切だと思っていました。

 

しかし人生は、それだけではありませんでした。

 

思い通りにならない出来事。 

受け入れ難い別れ。 

突然の病。 

予想外の喪失。

 

そうした経験が、

私をより深く人生と向き合わせてくれました。

 

そして今では、

順調だった時期よりも、

苦しかった時期の方が私を成長させてくれたことを確信しています。

 

 

魂の暗夜とは、

光を失う期間ではありません。

 

外側の光が見えなくなることで、

内なる光を見出していく期間なのです。

 

そしてその静かな旅路の中で、

魂は少しずつ成熟していきます。

 

人生は時に、

私たちから何かを奪っているように見えます。

 

けれど本当は、

より深い智慧と愛を受け取るための準備をしているのかもしれません。

 

失われていくものがあるからこそ、

育まれていくものがあります。

 

そのことを知った時、

人生の見え方は少しずつ変わり始めるでしょう。

 

 

RISHIKESH YOGASHALA

Yoga Wisdom

サティヤプレーマ