Holistic Ayurveda|生命を整える智慧⑨ 心にも、未消化のものは積み重なっていく ― アーユルヴェーダが教える「アーマ」という智慧 ―


私たちは毎日、食事をしています。

そして、その食べ物を身体の中で消化しています。

もし消化しきれなければ、身体には不要なものが残ってしまいます。

 

アーユルヴェーダでは、それをアーマと呼びます。

一般には「毒素」や「未消化物」と訳されることが多い言葉です。

 

けれど、この考え方は身体だけにとどまりません。

 

人生にも、消化しきれないものがあります。

 

誰かに言われた一言。

突然の別れ。

叶わなかった夢。

許せない出来事。

心の中で整理できないまま、そっとしまい込んだ感情。

 

そのような経験は、時間が経てば自然に消えるわけではありません。

身体に未消化のものが残るように、心にも未消化のものは静かに積み重なっていきます。

 

私たちは、「忘れた」と思うことがあります。

 

けれど本当は、忘れたのではなく、心の奥へ押し込めただけなのかもしれません。

 

だから似たような出来事が起きた時、突然涙があふれたり、必要以上に怒りが込み上げたりすることがあります。

 

その反応は、今起きた出来事だけではなく、これまで消化しきれなかった感情が、「ここにいるよ」と静かに知らせているのかもしれません。

 

アーユルヴェーダは、身体と心を別々には考えません。

 

身体が疲れれば、心も重くなります。

心が傷つけば、身体にも影響が現れます。

 

だから、本当の健康とは、身体だけを整えることではなく、心の中に残った未消化のものにも優しく目を向けることです。

 

とはいえ、アーマは敵ではありません。

 

「悪いものを取り除かなければ」と焦る必要もありません。

 

未消化のものがあるということは、それだけ一生懸命に生きてきた証でもあるからです。

 

大切なのは、無理に忘れようとすることではありません。

 

少しずつ受け止め、理解し、人生の一部として消化していくことです。

 

そのためには、静かな時間が必要です。

 

眠ること。

自然の中を歩くこと。

呼吸を感じること。

瞑想をすること。

誰かと安心して話すこと。

 

そして、自分自身の心に耳を澄ませること。

 

そうした時間の中で、心のアーマは少しずつ溶け始めます。

 

私は、アーユルヴェーダとは、「健康になるための技術」ではなく、「人生を消化していく智慧」なのだと感じています。

 

食べ物を消化するように、人生もまた少しずつ受け止め、意味へと変えていく。

 

その積み重ねが、心にも身体にも、本来の軽やかさを取り戻してくれるのでしょう。

 

次回はいよいよ、このシリーズの最終回です。

 

アーユルヴェーダを代表する「パンチャカルマ」を通して、「浄化」とは何か、そして人生を整え直すということについて、一緒に考えていきたいと思います。

 

 

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